恋愛セミナー69【東屋】第五十帖 <東屋 あずまや-3> あらすじ浮舟は、馴れ馴れしく横たわる男性が匂宮ときづきます。 匂宮は恐い顔をした乳母がそばについているので名前を聞くことしかできません。 「おかしなことが起っていて、動けないのです。」中の姫の女房達が匂宮を探しにきたので、乳母は人々を呼び入れました。 またいつもの癖が、と右近という女房は中の姫に知らせに行きますが匂宮はまったく意に介さず、浮舟に言い寄り続けます。 浮舟を気の毒に思い、匂宮の若い女性を見るとすぐに目をつけてしまうのを嘆く中の姫。 女房達があれこれ噂するのを、聞きづらく思っていると宮廷から明石の中宮が病気との使いがやってきます。。 右近が使いが来たことを知らせると、匂宮はようやく浮舟を開放し、次の逢瀬を誓って出かけてゆきました。 生きた心地もなく、乳母が慰めても浮舟は泣き続けています。 浮舟の気持ちを晴らそうとする中の姫から部屋へ呼ばれますが、恥ずかしくて行く気になれません。 「可哀想に。匂宮はご自分が浮気な性格だから他の人の恋心もある程度は許してしまうけれど、 真面目な薫の君がこのことを聞いたら何と思うか。それにしても浮舟のような哀れな境遇に なったかもしれないのに私は本当に運勢が強かったのだわ。」と感慨深く思う中の姫。 「何もご存知ないので、清い身ですのに気に病んでいらっしゃるのです。」 乳母はこう弁明し、強いて浮舟を中の姫の前に連れてゆきますが浮舟が合わせる顔がありません。 「大姫が亡くなってからはとても寂しかったのだけれどあなたがいてくれてとてもうれしく思っているの。 どうぞお気持ちを楽になさって。」 そばで見ても浮舟はたいそう美しく、大姫に似ているので薫にふさわしいと思う中の姫。 中の姫は八の宮の話などをして、その夜は浮舟をそばにおいて休みます。 ただ女房達ばかりは、匂宮と浮舟の関係はどうなったのだろうと噂しているのでした。 次の日、乳母がこの一件を知らせると、母君は二条院に急いでやってきました。 恐縮している母君を、穏やかに迎える中の姫。 今までの感謝を伝え、浮舟を別の場所に移すと言う母君。 中の姫は残念に思いますが、母君は申し訳なさにそそくさと二条院をあとにします。 母君は三条に小さな家を用意してあったので、そこに浮舟を移します。 浮舟をおいてすぐに常陸の守の屋敷に帰ろうとする母君。 寂しさといつまでも母に心配をかけてしまう我が身の情けなさに泣き崩れてしまう浮舟。 母君もいつも一緒だった娘と離れるのは辛いのですが、常陸の守の怒りを買うのが嫌なので、 やはり屋敷に戻ってしまうのでした。 宇治の寺が出来上がり、薫は久しぶりに足を運びます。 山荘の遣水(やりみず屋敷内に引き込んだ小川)のそばで大姫のことを思い出しながら 「絶え果てずに湧き出る清水よ、なぜ亡き人の面影さえ留めてくれないのか。」と詠む薫。 弁の尼君を訪ねて積もる話をし、浮舟が匂宮のところにいるらしいと伝えます。 「今は小さい家に住んでいるようで、宇治に行くことができたらと母親から文を貰いまして。」と弁の尼君。 薫は弁の尼君に京へ向かい、浮舟に文を届けるように頼みます。 京へ宇治の紅葉などを携え、女二宮に見せる薫。 帝からも大切にされている女二宮を丁重に扱うものの、睦まじい仲とはいえません。 気をつかう妻がいる上に、さらに秘め事が重なる薫なのでした。 恋愛セミナー69 1 匂宮と浮舟 思い残して 2 薫と浮舟 秘めやかに 乳母の活躍で浮舟はあやうく難を逃れました。 匂宮の傍若無人な振る舞いに、すっかり慣れてしまっている二条院の人々。 中の姫もその例外ではなく、浮舟に対しても穏やかに対します。 上流階級で妻として生きるための覚悟が見え、結婚生活に完全に満足は していないながら、落ちぶれてさまようことになりかねなかった我が身を 妹・浮舟に重ねあわせる冷めた視点を、中の姫は持っています。 かつて源氏に翻弄されるだけでしかなかった藤壺が、皇子誕生で政治家として源氏の パートナーとして立ち上がりました。 そのとき政敵・弘徽殿の女御が対抗馬としたのが八の宮。 政治的に負けた八の宮の娘が、人任せの人生から、結婚を通して、強く美しく 花開こうとしています。 浮舟は、その名のとおり、流れ流れる境遇。 京から常陸へ、常陸から京の屋敷へ、二条院へ、そして三条の家へ。 それでも、匂宮の目にとまり、中の姫も認める美しさをたたえた可憐な姫君。 いよいよ完成した宇治の寺に、薫の本尊としてすんなりおさまってゆくのでしょうか。 それとも、姉達のように薫を拒否し続けるのでしょうか。 |